2012-04-30 (月) | 編集 |
孫子 兵法 大研究!
本文注釈:孫子 兵法 大研究!
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『計、利として以て聴かるれば、乃ち之れが勢を為して、以て其の外を佐く。』:本文注釈
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解釈を二通り示してみます。
①古くからの解釈では、「利」は有利な状況、利益というようになっているが、それでは「呉王闔閭が吾が計謀を利益があるとして聴き入れられたならば、」という意味となる。聴きいれるのは自分に利益があるとおもえば当然であろうから、あえて文で表すことなのかどうか、どうもおかしく感じられる。また、利益があると思って聴きいれるだけで、「勢」が生まれるものなのかどうか、これも疑問に感じられる。それよりも、「利」の意味を「するどい」の意で解釈してみてはどうであろうか。「呉王闔閭が吾が計謀を、注意を持って微細を穿つかのように聴きいれられれば、」となり、自然である。また、次の「之が勢を為す」にも自然とつながる。「勢」とは、例えば十人いれば、十人の力を一つにまとめて大きな力を発揮することである。また、逆に呼吸が合わねば十人の力はそれぞれ一人一人の力となり、弱いものとなる。つまり、呉王である闔閭が孫武の計をよく理解すれば、ほかの将軍にも要点をついて任務を与えることができ、その将軍も任務の意味がよく理解できれば、末端の兵士までそれぞれの役割をもたせることができる。よって全軍の力が存分に機能し、その力を発揮できるようになる。その全軍一丸となった形が「勢」であり、また、その兵の「勢」を利用することで、あらかじめ用意していた計謀だけでは届いていなかった所も補佐するかのような効果を生むということである。
②『吾が計謀を廟算の結果、利益が大きいと判断し、聴きいれ、正しくさばいたならば、吾が計謀がそこではじめて実質的な力、即ち勢いとなり、その勢いをもって、吾が計謀を「常法」(経または正)とするなら、その外である「変法」(権または奇)の助けとします。』
勝負事はデータ(五事・七計、彼を知り己を知る)なしでは勝てないし、データだけでも勝てるものではない。そしてその勝負事を決定するもの(権)は、ロジックの限界との境目の臨界点から発生するものである。そのロジックを超えた非論理的な力を味方につけなければ勝つことはできない。そのロジックの臨界点から生まれるものが、自分の経験則から導き出される直感である。これが「以て其の外を佐く」、いわゆる計算外の事態をたすける「勢」につながっていく(勢を為す)。ただし、その直感は自分ひとりが活用するものではない。戦争は常に自分を含む多数の味方と一緒に行うものである。自分ひとりの世界のものであれば、その直感を生かすだけでよいのだが、多数の味方がいる場合、周りのみんなに理解してもらうことが大事である。よって自分の考え(計謀、計算)を味方が利があると思って聴きいれてくれることが重要となる。ただ、戦争は不合理に思うことも実行しなければならないこともある。そんなとき、味方には秘匿しなければならない時もでてくるかもしれない。そんなとき味方が言うことを聴いてくれない、などという事態があってはならない。戦場では指揮系統が乱れることは死を意味する。故に上の立場の者は下の立場の者の人事権をしっかり握ることが必須となるのである。(『将、吾が計を聴かば、之れを用いて必ず勝つ。之れを留めん。将、吾が計を聴かざれば、之れを用うるも必ず敗る。之れを去らん。』の文がこれに当たる。)そして、下の者の人事権を掌握することは、計を味方の皆に明らかにする以前に行われるべきものであるため、本文の文の順序もこの通りになっているのである。
利-①するどい。刃物の切れ味がよい。②役に立つ。役に立たせる。㋐効用がある。きく。好都合。よい。㋑うまく使う。㋒ためになるようにする。③もうけ。得。【解字】もと、刀部5画。会意。「禾」(=いね)+「刀」。いねを刃物で切る意。転じて、するどい意。
聽-①耳をそばだてて聞く。聞きとる。「聴」に対し、「聞」は、音声が自然に耳にはいってくる意。②ききいれる。ききしたがう。ゆるす。【解字】形声。「耳」+「悳」(=徳。まっすぐな心)+音符「壬」(=問いただす)。よく聞いて正しくさばく意。
勢-①他を押さえ従わせる力。いきおい。②自然のなりゆき。様子。③人数。兵力。④男性の生殖器。⑤「伊勢」の略。【解字】会意。上半部「埶」は「芸」(=藝)の原字で、草木を植える意。「力」を加えて、草木を植え育てる人の力の意。
外-①そと。そとがわ。うわべ。②ほか。㋐よそ。㋑正統からはずれている。ある範囲のほか。③はずす。のぞく。④身うちで母・妻または嫁とついだ娘の側。【解字】形声。「卜」(=うらない)+音符「月」の変形。月の欠け具合を見てうらなう意。転じて、月が欠けて残ったそとがわの部分の意。一説に、うらないでひびわれが現れる亀甲の表面、すなわちそとの意とする。
佐-①たすける。②すけ。令制で、兵衛府・衛門府の次官。軍隊の将校の階級の一つで、将の下。【解字】形声。「人」+音符「左」(=たすける)。「左」がもっぱら「ひだり」の意味に使われるようになったので、「人」を加えて区別した。
註
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○天野孫子:○計利以聴-「計」ははかりごと。前文の「吾計」を受ける。一説に殆んどの註家は彼我両国の優劣の計算と解する。従って「計利」を彼我両国の優劣を比較計算してわれが有利であるとする。『諺義』は「計利とは、彼我相かんがへくらべて、利我に多くして、必勝の道そなわるなり」と。なお一説に『兵法択』は「利を計りて」と読み、「利を計るとは、之を計りて利あるなり」と。「聴」は聞き入れられるの意。聞き入れる者は、君主、呉王闔廬。『講義』は「計利為り。君之を聴す」と。一説に諸将であると。『新釈』は「諸将亦之に傾聴同意す」と。また一説に主将であると。『管窺』は「主将之を聴用す」と。 ○乃為之勢以佐其外-「乃」はそこではじめての意。「之」は「計」をうける。『新釈』は「『之』の字は『計』を受ける」と。「之勢」とは、はかりごとに利があることから生ずる勢い。「為之勢」ははかりごとが有利であるということから勢いをつくり出すの意。一説に張預は「兵勢を為す」と。また一説に『詳解』は「之に勢を為(あた)へて」と読んで、「威力を、計を聴くの将に賜与して三軍を統領せしむ」と。「其」は「計」を受ける。『詳解』は「其の字は計を指す」と。「其外」とは、はかりごとを内とし、それに対しての外を言う。「佐其外」とは外的条件をよくするの意。前句とこの句に注して一説に『纂注』は「蓋し五経(五事)七計は、兵の常法にして、自治の道なり。自治既に立てば、則ち兵以て挙ぐべし。然れども徒らに自治を恃みて堅を攻め鋭を摧(くだ)き、以て勝を鋒鏑(ほうてき)の間に争へば、則ち亦善戦者と為さず。故に之が勢を設為して以て常法の外を助く」と。鋒鏑は刀と矢。
○大橋孫子:計、利にして…其の外を佐く-戦理にかなった状況判断が採用されれば、勢いを生じ、廟堂の外、戦場における戦いが有利となる
○武岡孫子:計、利にして以て聴かるれば-五事七計に基づく戦争計画が有利として聴許されたなら 乃ちこれが勢を為して-その計画を実行するために、可能で有利な状勢を作為すること 以て其の外を佐く-作戦軍の国外における軍事活動を支援する
○佐野孫子:計利以聴-「利」とは、「計」に「勝ち目が輝き、勢いがあること」を言う。「聴」は聞き入れられるの意。 乃為之勢-「乃」はそこではじめての意。「之」は「計」を受ける。「之勢」とは、はかりごとに利があることから、生ずる勢い。 以佐其外-「其」は計を受ける。「其外」とは、はかりごとを内とし、それに対しての外を言う。「佐其外」とは外的条件をよくするの意。ここでは、正しい戦略による戦争の主動権確保は一種の優勢となって、戦いにおいて勝利を収める外部的条件と成ることを言う。
○フランシス・ワン孫子:一、「計、利として以て聴かるれば」 五事・七計に基づく戦争判断(政・戦略判断)が有利であるとして聴許されたならば、の意である。 一、「乃ち之が勢を為して、以て其の外を佐く」 「之が勢を為す」は、戦争判断に基づく戦争計画によって状勢を作為すること(形勢作為)。「以て其の外を佐く」とは、作戦軍の国境外に於ける軍事活動を支援すること。「外」とは内に対する外、いわゆる閫外(王城の外)の意である。梅堯臣は「計、内に定まれば、勢を外に為し、以てその勝ちの成るを助く」と註している。つまり、本項は、作戦軍の活動を容易にするための状勢作為(政・戦略的舞台の作為)の必要を説くものである。
○守屋孫子:さて、以上述べた七つの基本条件において、こちらが有利であるとしよう。次になすべきことは、「勢」を把握して、基本条件を補強することである。
○田所孫子:○計利とは、道天地将法の五経で敵と味方との内情を比較研究して、計算の結果がわれに有利であるとの意。 ○以聴とは、君主がよろしいと嘉納するとの意。 ○為之勢の之は君主がよろしいと嘉納したこと。勢とは激水の奔流するさま。君主が嘉納したことに意を強うして、着々と宣戦布告に至る準備態勢。 ○佐其外とは、側面・外面から戦闘準備工作をすすめるとの意。
○重沢孫子:わが作戦のすぐれたことが、すでに理解いただけました上は、”勢”-軍の作戦にはずみをつける謀略とでも申しますか-そういうものを臨機応変に編み出しまして、正規の用兵作戦を外側から援助いたします(といった前置きよろしく)、以下”勢”なるものについて、孫子は解説してゆきます。
○著者不明孫子:【計利以聴】「吾が計」が利ありとされて、そして聞き入れられたなら。「計の利なること以(すで)に聴かるれば」の意にとる説(王晳など)もあり、「計利」を「利を計る」と解する説(杜牧など)もある。 【乃為之勢】「乃」は「そこで」の意。「之が勢を為す」とは、そこに勢いを加えること。勢いとはふつう「成り行き」の意であるが、ここでは特に「因利而制権」という解説がついている。権ははかりの分銅で、それを動かして物の目方を量る。そこから、固定した常道でなく、時と場合に応じて妥当な対処の仕方を選ぶことを権という。「権を制す」とはそういう権の方法を実際に選んで決定すること。 【佐其外】「佐」は助ける。「其外」は「計」の外。最初の計画の中に含まれていた、原則的に予想された事態以外の状況をいう。
○諺義:計利とは、彼我相かんがへたくらべて、利我れに多くして、必勝の道そなはる也。以て聽せとは、兵を用ひ敵に從つて相戦ふのことをゆるす也。云ふ心は、五事七計を以て考ふるに、我れに利あらば乃ち敵とはだへを合せたたかひをなさんとすでにゆるすとき、勢と云ふものを以て戦法のたすけとすべき也。勢はつまびらかに兵勢篇に之れ在り。外と云ふは兵をあらはし戦場にのぞみて、兩軍相戦ふのときを云へり。右五事七計は皆内にあつて、我れを正し兵をととのへ、勝敗をかんがふる道也。勢は相臨んで外に戦ふときの術也。この段に外の一字をしるして、以前の説は皆廟堂帷幄の内の謀なることをしめす。凡そ五事は内、七計は外也。五事七計は内也、勢は外也。佐と云ふは本といたすことにあらず、これをたすけといたす也。主君のたすけになるものを輔佐の臣と云ひ、大将のためにたすけたるものを、副裨と云ふ。佐は輔副の心也。右の五事七計を以て本として、勢をそのたすけといたすと云ふ心也。此の一句孫子兵を談じて古今に超出し、萬世これをのつとるゆゑんなり。五事七計ととのふときは必勝なりと云ふ上は、勢は論ずるにたらざると云ふ可き所に、計利あらば以て聽せ、乃ち之れが勢を為し、以て其の外を佐けよ、と云ふ一句を以て、權道機變奇道を臨戦のたすけとなすべしと論ず。ここにおいて内外ととのひ、經權並行し、常變相通じ、正奇相序で、兵法全き也。古今兵を論ずるもの、或は權謀にながれて道を知らず、或は仁義に拘りて變に合ふを知らず、このゆゑに兵法の全備と云ふべきあらざる也。
○孫子国字解:此段より下、不可先傳也とあるまでは、勢ひのことを云へり。右の五事七計のつもりにて、勝負は分るることなれども、軍には不意の變動と云ものあり。天地の氣も、日々夜々に生々して止まず、人また活物なれば、兩軍相對する上にて、無盡の變動起ること、先たちてはかるべからず。故に五事七計何れも宜しくて、味方の勝にきはまりたる軍にても、何事なくして勝べきに非れば、兵の勢と云ことをなして、軍の勝を助くることを云たるなり。計利以聽とは、右の七計にてつもり計て、味方の勝利と知り、軍の手當てをせんに、主将尤と聽入れ玉ひ、上下一致していよいよ勝利に究まりたれども、猶又兵の勢と云ことをなして、其助けとするとなり。佐其外とは、右の五事七計にてはかりつもりて、設たる手當ては、出陣前にきはまることにて、是を内謀と云なり。内謀にて及ばず届かぬ處あるを、兵の勢ひにて助け手つたひて、全き勝利をなすゆへ外を佐くとは云なり。
○孫子評註:「計(五事七計によって作戦を練ってみて戦争が我に有利であることがわかり、その作戦が聴許される場合には、それを「勢」すなわち実戦的な力に転じて外の作戦の展開を助ける。)利にして以て聴かるれば、」-四字(原文の四字を指す。)は順に上の兩項を承(う)く。利とは即ち勝負を知るなり。聽とは即ち吾が計を聽くなり。
「乃ち之れが勢を為して、以て其の外を佐(たす)く。」-廟算(朝廷での作戦計画。)は内なり。故に戦地は之れを外と謂ふ。 ○孫子の兵を論ずるや活潑々地(魚がはねるようにいきいきとして、勢いのよいさま。)、誰れか能くここに及ばんや。
○曹公:常法の外なり。
○李筌:計利既に定れば、乃ち形勢の便に乗じるなり。其の外を佐くとは、常法の外なり。
○杜牧:利害を計算す。是れ軍事の根本なり。利害既に聽用し見れば、然る後常法の外に於いて更に兵勢を求め以て其の事を助佐けるなり。
○賈林:其の利を計り、其の謀を聽き、敵の情を得れば、我れ乃ち奇譎の勢を設け以て之れを動かす。外とは或は傍らを攻めざらん或は後を躡まざらんことを、以て正陳を佐く。
○梅堯臣:計 内に定れば、勢外に為り、以て成勝を助く。
○王晳:吾計の利已に聴く。復た當に變に應じ以て其の外を佐くことを知るべし。
○張預:孫子又謂へらく、吾計る所の利、若し已に聽き従えば、則我れ當に復た兵勢を為し、以て其の事の外を佐助けるべし。蓋し兵の常法とは即ち人に明言す可からん。兵の勢を利すとは、須らく敵に因りて為すべし。
意訳
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○金谷孫子:はかりごとの有利なことが分かって従われたならば、[出陣前の内謀がそれで整ったわけであるから、]そこで勢ということを助けとして[出陣後の]外謀とする。
○浅野孫子:計謀をご自身の利益だと判断されてお聞き入れになりますならば、国内で準備すべき勝利の体制はそれで整いますから、つぎにはあなたの軍隊に勢を付与して、外征後の補助手段とします。
○町田孫子:はかりごとの有利さがおわかりいただけたら、次には勢というものを醸成して、外側からの助けとします。
○天野孫子:およそ、そのはかりごとが有利であるとして、それが聞き入れられるならば、そこで始めて有利なはかりごとが勢をつくりだし、それが外的条件をよくする。
○大橋孫子:戦理にかなった状況判断が採用されれば、勢いを生じ、廟堂の外、戦場における戦いが有利になる。
○武岡孫子:ところで戦争指導において、前述のように戦理にかなった状況判断を行なって結論を出し、それが君主に許可されれば、次はそれを実行するために有利な状勢を作り出すことがたいせつである。つまり、作戦軍の活動を容易にするとか、その成果を生かす外部環境を整えるなどである。
○フランシス・ワン孫子:将軍は、私の軍事論(方策)が明らかにした利点を考慮して、それを実現しやすい状勢をつくり出していかねばならない。
○著者不明孫子:もし我が方策が有利とされて採用されるなら、さらに勢いを用いて、計画外の事態に対する補いとする。
○学習研究社孫子:計算と有利さとを基準として判断し、敵よりも力量が大きくなるよう努める。そのことによって、実力の及ばない点を補助する。
○佐藤堅司 孫子の思想史的研究:五事七計の内謀がわれに有利であることがわかり、戦争が聴許される場合になすべきことはなんであるか。その時には、事計の静的な力を動的な力すなはち「勢」(兵勢篇に詳述)に転じて、外の戦争を助けよ。
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『計、利として以て聴かるれば、乃ち之れが勢を為して、以て其の外を佐く。』:本文注釈
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解釈を二通り示してみます。
①古くからの解釈では、「利」は有利な状況、利益というようになっているが、それでは「呉王闔閭が吾が計謀を利益があるとして聴き入れられたならば、」という意味となる。聴きいれるのは自分に利益があるとおもえば当然であろうから、あえて文で表すことなのかどうか、どうもおかしく感じられる。また、利益があると思って聴きいれるだけで、「勢」が生まれるものなのかどうか、これも疑問に感じられる。それよりも、「利」の意味を「するどい」の意で解釈してみてはどうであろうか。「呉王闔閭が吾が計謀を、注意を持って微細を穿つかのように聴きいれられれば、」となり、自然である。また、次の「之が勢を為す」にも自然とつながる。「勢」とは、例えば十人いれば、十人の力を一つにまとめて大きな力を発揮することである。また、逆に呼吸が合わねば十人の力はそれぞれ一人一人の力となり、弱いものとなる。つまり、呉王である闔閭が孫武の計をよく理解すれば、ほかの将軍にも要点をついて任務を与えることができ、その将軍も任務の意味がよく理解できれば、末端の兵士までそれぞれの役割をもたせることができる。よって全軍の力が存分に機能し、その力を発揮できるようになる。その全軍一丸となった形が「勢」であり、また、その兵の「勢」を利用することで、あらかじめ用意していた計謀だけでは届いていなかった所も補佐するかのような効果を生むということである。
②『吾が計謀を廟算の結果、利益が大きいと判断し、聴きいれ、正しくさばいたならば、吾が計謀がそこではじめて実質的な力、即ち勢いとなり、その勢いをもって、吾が計謀を「常法」(経または正)とするなら、その外である「変法」(権または奇)の助けとします。』
勝負事はデータ(五事・七計、彼を知り己を知る)なしでは勝てないし、データだけでも勝てるものではない。そしてその勝負事を決定するもの(権)は、ロジックの限界との境目の臨界点から発生するものである。そのロジックを超えた非論理的な力を味方につけなければ勝つことはできない。そのロジックの臨界点から生まれるものが、自分の経験則から導き出される直感である。これが「以て其の外を佐く」、いわゆる計算外の事態をたすける「勢」につながっていく(勢を為す)。ただし、その直感は自分ひとりが活用するものではない。戦争は常に自分を含む多数の味方と一緒に行うものである。自分ひとりの世界のものであれば、その直感を生かすだけでよいのだが、多数の味方がいる場合、周りのみんなに理解してもらうことが大事である。よって自分の考え(計謀、計算)を味方が利があると思って聴きいれてくれることが重要となる。ただ、戦争は不合理に思うことも実行しなければならないこともある。そんなとき、味方には秘匿しなければならない時もでてくるかもしれない。そんなとき味方が言うことを聴いてくれない、などという事態があってはならない。戦場では指揮系統が乱れることは死を意味する。故に上の立場の者は下の立場の者の人事権をしっかり握ることが必須となるのである。(『将、吾が計を聴かば、之れを用いて必ず勝つ。之れを留めん。将、吾が計を聴かざれば、之れを用うるも必ず敗る。之れを去らん。』の文がこれに当たる。)そして、下の者の人事権を掌握することは、計を味方の皆に明らかにする以前に行われるべきものであるため、本文の文の順序もこの通りになっているのである。
利-①するどい。刃物の切れ味がよい。②役に立つ。役に立たせる。㋐効用がある。きく。好都合。よい。㋑うまく使う。㋒ためになるようにする。③もうけ。得。【解字】もと、刀部5画。会意。「禾」(=いね)+「刀」。いねを刃物で切る意。転じて、するどい意。
聽-①耳をそばだてて聞く。聞きとる。「聴」に対し、「聞」は、音声が自然に耳にはいってくる意。②ききいれる。ききしたがう。ゆるす。【解字】形声。「耳」+「悳」(=徳。まっすぐな心)+音符「壬」(=問いただす)。よく聞いて正しくさばく意。
勢-①他を押さえ従わせる力。いきおい。②自然のなりゆき。様子。③人数。兵力。④男性の生殖器。⑤「伊勢」の略。【解字】会意。上半部「埶」は「芸」(=藝)の原字で、草木を植える意。「力」を加えて、草木を植え育てる人の力の意。
外-①そと。そとがわ。うわべ。②ほか。㋐よそ。㋑正統からはずれている。ある範囲のほか。③はずす。のぞく。④身うちで母・妻または嫁とついだ娘の側。【解字】形声。「卜」(=うらない)+音符「月」の変形。月の欠け具合を見てうらなう意。転じて、月が欠けて残ったそとがわの部分の意。一説に、うらないでひびわれが現れる亀甲の表面、すなわちそとの意とする。
佐-①たすける。②すけ。令制で、兵衛府・衛門府の次官。軍隊の将校の階級の一つで、将の下。【解字】形声。「人」+音符「左」(=たすける)。「左」がもっぱら「ひだり」の意味に使われるようになったので、「人」を加えて区別した。
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○天野孫子:○計利以聴-「計」ははかりごと。前文の「吾計」を受ける。一説に殆んどの註家は彼我両国の優劣の計算と解する。従って「計利」を彼我両国の優劣を比較計算してわれが有利であるとする。『諺義』は「計利とは、彼我相かんがへくらべて、利我に多くして、必勝の道そなわるなり」と。なお一説に『兵法択』は「利を計りて」と読み、「利を計るとは、之を計りて利あるなり」と。「聴」は聞き入れられるの意。聞き入れる者は、君主、呉王闔廬。『講義』は「計利為り。君之を聴す」と。一説に諸将であると。『新釈』は「諸将亦之に傾聴同意す」と。また一説に主将であると。『管窺』は「主将之を聴用す」と。 ○乃為之勢以佐其外-「乃」はそこではじめての意。「之」は「計」をうける。『新釈』は「『之』の字は『計』を受ける」と。「之勢」とは、はかりごとに利があることから生ずる勢い。「為之勢」ははかりごとが有利であるということから勢いをつくり出すの意。一説に張預は「兵勢を為す」と。また一説に『詳解』は「之に勢を為(あた)へて」と読んで、「威力を、計を聴くの将に賜与して三軍を統領せしむ」と。「其」は「計」を受ける。『詳解』は「其の字は計を指す」と。「其外」とは、はかりごとを内とし、それに対しての外を言う。「佐其外」とは外的条件をよくするの意。前句とこの句に注して一説に『纂注』は「蓋し五経(五事)七計は、兵の常法にして、自治の道なり。自治既に立てば、則ち兵以て挙ぐべし。然れども徒らに自治を恃みて堅を攻め鋭を摧(くだ)き、以て勝を鋒鏑(ほうてき)の間に争へば、則ち亦善戦者と為さず。故に之が勢を設為して以て常法の外を助く」と。鋒鏑は刀と矢。
○大橋孫子:計、利にして…其の外を佐く-戦理にかなった状況判断が採用されれば、勢いを生じ、廟堂の外、戦場における戦いが有利となる
○武岡孫子:計、利にして以て聴かるれば-五事七計に基づく戦争計画が有利として聴許されたなら 乃ちこれが勢を為して-その計画を実行するために、可能で有利な状勢を作為すること 以て其の外を佐く-作戦軍の国外における軍事活動を支援する
○佐野孫子:計利以聴-「利」とは、「計」に「勝ち目が輝き、勢いがあること」を言う。「聴」は聞き入れられるの意。 乃為之勢-「乃」はそこではじめての意。「之」は「計」を受ける。「之勢」とは、はかりごとに利があることから、生ずる勢い。 以佐其外-「其」は計を受ける。「其外」とは、はかりごとを内とし、それに対しての外を言う。「佐其外」とは外的条件をよくするの意。ここでは、正しい戦略による戦争の主動権確保は一種の優勢となって、戦いにおいて勝利を収める外部的条件と成ることを言う。
○フランシス・ワン孫子:一、「計、利として以て聴かるれば」 五事・七計に基づく戦争判断(政・戦略判断)が有利であるとして聴許されたならば、の意である。 一、「乃ち之が勢を為して、以て其の外を佐く」 「之が勢を為す」は、戦争判断に基づく戦争計画によって状勢を作為すること(形勢作為)。「以て其の外を佐く」とは、作戦軍の国境外に於ける軍事活動を支援すること。「外」とは内に対する外、いわゆる閫外(王城の外)の意である。梅堯臣は「計、内に定まれば、勢を外に為し、以てその勝ちの成るを助く」と註している。つまり、本項は、作戦軍の活動を容易にするための状勢作為(政・戦略的舞台の作為)の必要を説くものである。
○守屋孫子:さて、以上述べた七つの基本条件において、こちらが有利であるとしよう。次になすべきことは、「勢」を把握して、基本条件を補強することである。
○田所孫子:○計利とは、道天地将法の五経で敵と味方との内情を比較研究して、計算の結果がわれに有利であるとの意。 ○以聴とは、君主がよろしいと嘉納するとの意。 ○為之勢の之は君主がよろしいと嘉納したこと。勢とは激水の奔流するさま。君主が嘉納したことに意を強うして、着々と宣戦布告に至る準備態勢。 ○佐其外とは、側面・外面から戦闘準備工作をすすめるとの意。
○重沢孫子:わが作戦のすぐれたことが、すでに理解いただけました上は、”勢”-軍の作戦にはずみをつける謀略とでも申しますか-そういうものを臨機応変に編み出しまして、正規の用兵作戦を外側から援助いたします(といった前置きよろしく)、以下”勢”なるものについて、孫子は解説してゆきます。
○著者不明孫子:【計利以聴】「吾が計」が利ありとされて、そして聞き入れられたなら。「計の利なること以(すで)に聴かるれば」の意にとる説(王晳など)もあり、「計利」を「利を計る」と解する説(杜牧など)もある。 【乃為之勢】「乃」は「そこで」の意。「之が勢を為す」とは、そこに勢いを加えること。勢いとはふつう「成り行き」の意であるが、ここでは特に「因利而制権」という解説がついている。権ははかりの分銅で、それを動かして物の目方を量る。そこから、固定した常道でなく、時と場合に応じて妥当な対処の仕方を選ぶことを権という。「権を制す」とはそういう権の方法を実際に選んで決定すること。 【佐其外】「佐」は助ける。「其外」は「計」の外。最初の計画の中に含まれていた、原則的に予想された事態以外の状況をいう。
○諺義:計利とは、彼我相かんがへたくらべて、利我れに多くして、必勝の道そなはる也。以て聽せとは、兵を用ひ敵に從つて相戦ふのことをゆるす也。云ふ心は、五事七計を以て考ふるに、我れに利あらば乃ち敵とはだへを合せたたかひをなさんとすでにゆるすとき、勢と云ふものを以て戦法のたすけとすべき也。勢はつまびらかに兵勢篇に之れ在り。外と云ふは兵をあらはし戦場にのぞみて、兩軍相戦ふのときを云へり。右五事七計は皆内にあつて、我れを正し兵をととのへ、勝敗をかんがふる道也。勢は相臨んで外に戦ふときの術也。この段に外の一字をしるして、以前の説は皆廟堂帷幄の内の謀なることをしめす。凡そ五事は内、七計は外也。五事七計は内也、勢は外也。佐と云ふは本といたすことにあらず、これをたすけといたす也。主君のたすけになるものを輔佐の臣と云ひ、大将のためにたすけたるものを、副裨と云ふ。佐は輔副の心也。右の五事七計を以て本として、勢をそのたすけといたすと云ふ心也。此の一句孫子兵を談じて古今に超出し、萬世これをのつとるゆゑんなり。五事七計ととのふときは必勝なりと云ふ上は、勢は論ずるにたらざると云ふ可き所に、計利あらば以て聽せ、乃ち之れが勢を為し、以て其の外を佐けよ、と云ふ一句を以て、權道機變奇道を臨戦のたすけとなすべしと論ず。ここにおいて内外ととのひ、經權並行し、常變相通じ、正奇相序で、兵法全き也。古今兵を論ずるもの、或は權謀にながれて道を知らず、或は仁義に拘りて變に合ふを知らず、このゆゑに兵法の全備と云ふべきあらざる也。
○孫子国字解:此段より下、不可先傳也とあるまでは、勢ひのことを云へり。右の五事七計のつもりにて、勝負は分るることなれども、軍には不意の變動と云ものあり。天地の氣も、日々夜々に生々して止まず、人また活物なれば、兩軍相對する上にて、無盡の變動起ること、先たちてはかるべからず。故に五事七計何れも宜しくて、味方の勝にきはまりたる軍にても、何事なくして勝べきに非れば、兵の勢と云ことをなして、軍の勝を助くることを云たるなり。計利以聽とは、右の七計にてつもり計て、味方の勝利と知り、軍の手當てをせんに、主将尤と聽入れ玉ひ、上下一致していよいよ勝利に究まりたれども、猶又兵の勢と云ことをなして、其助けとするとなり。佐其外とは、右の五事七計にてはかりつもりて、設たる手當ては、出陣前にきはまることにて、是を内謀と云なり。内謀にて及ばず届かぬ處あるを、兵の勢ひにて助け手つたひて、全き勝利をなすゆへ外を佐くとは云なり。
○孫子評註:「計(五事七計によって作戦を練ってみて戦争が我に有利であることがわかり、その作戦が聴許される場合には、それを「勢」すなわち実戦的な力に転じて外の作戦の展開を助ける。)利にして以て聴かるれば、」-四字(原文の四字を指す。)は順に上の兩項を承(う)く。利とは即ち勝負を知るなり。聽とは即ち吾が計を聽くなり。
「乃ち之れが勢を為して、以て其の外を佐(たす)く。」-廟算(朝廷での作戦計画。)は内なり。故に戦地は之れを外と謂ふ。 ○孫子の兵を論ずるや活潑々地(魚がはねるようにいきいきとして、勢いのよいさま。)、誰れか能くここに及ばんや。
○曹公:常法の外なり。
○李筌:計利既に定れば、乃ち形勢の便に乗じるなり。其の外を佐くとは、常法の外なり。
○杜牧:利害を計算す。是れ軍事の根本なり。利害既に聽用し見れば、然る後常法の外に於いて更に兵勢を求め以て其の事を助佐けるなり。
○賈林:其の利を計り、其の謀を聽き、敵の情を得れば、我れ乃ち奇譎の勢を設け以て之れを動かす。外とは或は傍らを攻めざらん或は後を躡まざらんことを、以て正陳を佐く。
○梅堯臣:計 内に定れば、勢外に為り、以て成勝を助く。
○王晳:吾計の利已に聴く。復た當に變に應じ以て其の外を佐くことを知るべし。
○張預:孫子又謂へらく、吾計る所の利、若し已に聽き従えば、則我れ當に復た兵勢を為し、以て其の事の外を佐助けるべし。蓋し兵の常法とは即ち人に明言す可からん。兵の勢を利すとは、須らく敵に因りて為すべし。
意訳
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○金谷孫子:はかりごとの有利なことが分かって従われたならば、[出陣前の内謀がそれで整ったわけであるから、]そこで勢ということを助けとして[出陣後の]外謀とする。
○浅野孫子:計謀をご自身の利益だと判断されてお聞き入れになりますならば、国内で準備すべき勝利の体制はそれで整いますから、つぎにはあなたの軍隊に勢を付与して、外征後の補助手段とします。
○町田孫子:はかりごとの有利さがおわかりいただけたら、次には勢というものを醸成して、外側からの助けとします。
○天野孫子:およそ、そのはかりごとが有利であるとして、それが聞き入れられるならば、そこで始めて有利なはかりごとが勢をつくりだし、それが外的条件をよくする。
○大橋孫子:戦理にかなった状況判断が採用されれば、勢いを生じ、廟堂の外、戦場における戦いが有利になる。
○武岡孫子:ところで戦争指導において、前述のように戦理にかなった状況判断を行なって結論を出し、それが君主に許可されれば、次はそれを実行するために有利な状勢を作り出すことがたいせつである。つまり、作戦軍の活動を容易にするとか、その成果を生かす外部環境を整えるなどである。
○フランシス・ワン孫子:将軍は、私の軍事論(方策)が明らかにした利点を考慮して、それを実現しやすい状勢をつくり出していかねばならない。
○著者不明孫子:もし我が方策が有利とされて採用されるなら、さらに勢いを用いて、計画外の事態に対する補いとする。
○学習研究社孫子:計算と有利さとを基準として判断し、敵よりも力量が大きくなるよう努める。そのことによって、実力の及ばない点を補助する。
○佐藤堅司 孫子の思想史的研究:五事七計の内謀がわれに有利であることがわかり、戦争が聴許される場合になすべきことはなんであるか。その時には、事計の静的な力を動的な力すなはち「勢」(兵勢篇に詳述)に転じて、外の戦争を助けよ。
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