2012-06-03 (日) | 編集 |
孫子 兵法 大研究!
本文注釈:孫子 兵法 大研究!
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『故に利にして之れを誘い、』:本文注釈
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誘-①先に立って説きすすめる。先導する。いざなう。②さそい出す。おびきよせる。③それが原因となって、ひきおこす。【解字】形声。「言」+音符「秀」(=穂が出る。先に立つ)。自分が先に立って言葉で人をみちびく意。
竹簡孫子以外は『利にして之れを誘い』につくる。
ここでの「利」は「利益」の意。これは偽りの状態をつくりあげ、自分側を有利な状態に導く戦法である。この文意に近いと思われる言葉で、虚実篇の「故に善く敵を動かす者は、これに形すれば敵必ずこれに従い、これに予(あた)うれば敵必ずこれを取る。利を以てこれを動かし、卒を以てこれを待つ。」や、軍争篇の「故に兵は詐を以て立ち、利を以て動き、分合を以て変を為す者なり。」などがある。いずれにせよ、この敵を誘い込む戦法は、消極的な戦法ではなく、自分が能動的になって相手を撃破せんとする場合に行うものである戦法であることに疑いはない。この積極的に相手を打ち破る場合の戦法として一例をあげると、虚実篇に「故に我れ戦わんと欲すれば、敵 塁を高くし溝を深くすと雖も、我れと戦わざるを得ざる者は、其の必ず救う所を攻むればなり。」と見え、また九地篇には「先ず其の愛する所を奪わば、則ち聽かん。」と見える。
この文の意を「敵に利益を見せて、誘い込んで撃つ」と解釈することは、狭義であろう。なぜなら、「害をみせてこちらの思う地点に相手を誘い込む」という戦法も考えられるからである。つまり、ここでの「利」の意味は、「自軍にとっての有利」となり、よってこの文の意味は、「敵が有利と感じるほうに誘い込む」というよりは、「自軍にとって有利であるように敵を誘い込む」のほうがより適当と考えられる。
よってこの文の意は「それゆえ、敵を「利」に固執させておいて、敵を誘い込み、」となるか、または、「それゆえ、自分を有利な状態にしておいて、敵を誘い込み、」となる。後者の意味は自分の「利」を以て動き、相手を誘い込む、ということである。この誘い込む戦法は、どちらにせよ現状を自分の有利な状況にもっていくことが目的であるから、後者の意味をおさえておけばこの戦法の基本は理解できていることになる。しかしながら奥深いと思われるのは前者の意である。人は「利」に固執する生き物であるから、これを戦場で応用すれば、「利」の適切な扱いは「相手の死」につながり「自軍の勝利」に繋がるということである。逆を言えば、「利」は自分をも殺すということである。「利」を生むことは敵に逆用されれば直ちに自分の「害」になるということである。しかしながら、このリスクを負わねば敵に勝つこともできないのである。また、相手に仕掛けられたときは見破り踏みとどまらねば「死」が待っているということである。それは自分にとって有利な状況にあると思っている矢先に「圧倒的不利」につながるのだから、将はよくよくこのことを念頭にいれておき、常に不敗の地に自軍をおくように心がけねばならないだろう。
ナポレオンは、人を動かすには「利益」と「恐怖」がもっとも有効であると言っている。確かに「利益」「恐怖」「不安」などは最も人に作用する要素であることは間違いない。しかし、「恐怖」「不安」のあとには人々は一致団結して戦うことがありえるのである。なぜなら「恐怖」などの苦難の経験のあとには仲間意識が芽生えやすいのである。一時的に敵を追い込み、誘導するといった点では大いに有効であろうが、時と場所での使い方を間違えると「恐怖」は「勇気」へと変わり、逆にこちらが追い込まれるということも考えられるのである。逆に「利益」は人をおぼれさせるにはもってこいである。人はいったん手に入れた利益は手離そうとはしない。手離すことは「恐怖」へと直結する。故に、目の前に大金を積まれても動じない、目先の大勝利にも目を奪われない、安易に行動に移すことを許さない懐疑精神が必要なのである。
註
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○金谷孫子:利にして…-以下の句は上文と句形が変わり、解釈に異説が多い。「而」の上の「利」「乱」などの字をすべて敵方に属するものとみて、統一的に解釈することにした。
○天野孫子:敵に小利を与えて敵を味方の思うところにさそい出す。『諺義』は「利を与へて、彼を引き出し、あざむきうつなり。誘ふと云ふは、いつはりてさそひ出す心なり。彼を引き出すには利を与ふるにあるなり。小利をかれに与へて大利をうるの心を以て本とするなり」と。
○フランシス・ワン孫子:一、「利して之を誘う」 これは、いつの時代いずれの国家に於ても、新しき手段として常に用いられる所である。梅堯臣は「彼れ利を貪らば、則ち貨を以て之を誘え」と註しているが、以て、その本質を知るべきであろう。
○守屋孫子:有利と思わせて誘い出し、
○田所孫子:利而誘之とは、相手方を如何にも有利なように思わせて、こちらの思う壺に誘いこんで来ること。
○重沢孫子:敵に対して、いま我を攻撃すれば有利であると判断するようにしむけ、実は敵を引き寄せて打撃を与える。
○著者不明孫子:【利而誘之】敵が有利であれば、それをえさにして敵をおびき出す(敵が誘いに乗って動きだしたところを撃つ)。諸注みな、利によって敵を誘惑する、敵に有利なように見せかけて誘いだす、などの意味に解するが、それでは「利而」の解釈が以下の諸条と照応しない。
○諺義:利を與へて彼れを引出し、あざむきをうつ也。誘と云ふは、いつはりてさそひ出す心也。彼れを引出すには利を與ふるにある也。小利をかれに與へて大利をうるの心を以て本とする也。利をあたふるとは、あへしらひ(應答)勢を出して、引きかくる也。或は小(すこ)し退き、或はわざと兵をみだし、彼れに利を與ふ、或はつねに財利を與へて、かれをあざむくの心もあり。
○孫子国字解:『利して之を誘(あざふ)き、亂(みだ)して之を取る』 『利して之を誘き、亂(みだ)れて之を取る』 利とは、敵の好むことを云なり。或は財寶米粮を取らせ、或は國郡を與へ、或は一旦の勝利を與へなどすることなり。誘くとは、だまし引出すことなり。是は城に引こもり、或は要害を固めて、出ざる敵或は戰まじき圖を守りて、戰はざる敵などを、彼れが好むことにて惑はして、是を引出すことなり。亂而取之とは、てだてを以て敵の亂れぬ備をみだして、是を打取るなり。むかし秦の苻堅(ふけん)と晉の謝玄、淝水(ひすい)と云川を夾(はさ)んて陣を取る。謝玄使を遣はして、少し備をあとへくり玉はば淝水を濟て合戦を仕らん。かやうに川を夾んで對陣しては、せんもなきこと也と云、苻堅尤とて備をあとへくる。其意謝玄が軍勢の川を半ば濟る所を、討んと思てなり。半渡を撃つと云は、古の兵法なれども、苻堅の軍兵二十萬にあまる大軍を、あとへくらんとせしかば、備忽亂れたり。謝玄兼て苻堅が半渡を撃つの計を用んとて、備の亂るるをは思ひつくまじと察して、右の如く申し遣したるに、案の如くてだてにのりたるゆへ、一戦にてこれを敗る。これ亂而取之のはかりごと也。或は火をかけ、馬を切てはなしなどして、敵陣を亂す計は、其品いくらもあるべし。また手前を亂して敵をかからせ、是を打取ると云説あり。是は上の利而誘之と云意なり。亂而取之と云とは、少しとをき説なり。又本文を、みだれてこれを取とよみて、敵國の政道亂れて、埒もなきと知らば、速にこれを攻取り、或は城中陣中の法の亂れたるを、亂れに乗じて攻落し、或は備の亂れ、足並の定まらぬを討取る類も、亂れて取之なり。みだれて、みだして、兩點何れも用べきなり。或説に、みだしてと讀時は、此方より計を以て亂すことゆへ、詭道なり。みだれてと讀時は、彼れが自分と亂れたるを攻取るゆへ、正道にて、詭道に非ず。此段は、兵の詭道を説たる處なれば、みだしてとよむ説、然るべしと云ものもあれども、最前にことはる如く、詭道と云は、強ちにいつはりたばかるばかりに非ず。千變萬化して、一定の格を守らぬことなれば、兩説ともに用べし。
○杜牧:趙将李牧大に畜牧を縦にす。人衆野に満つ。匈奴小く入る。佯北は勝たず。數千人を以て之を委ねる。単于之を聞きて大いに喜び、衆を率いて大いに至る。牧 多く奇陳を為す。左右夾みて撃つ。大いに破りて匈奴十餘萬騎を殺すなり。
○賈林:利を以て之を動かす。動けば而して形有り。我れ形に因りて勝ちを制す所以なり。
○梅堯臣:彼 利を貪れば則貨を以て之を誘う。
○何氏:利にして之を誘うとは、赤眉[せきび‐の‐らん【赤眉の乱】 前漢を倒した新朝の王莽(おうもう)の失政による社会の混乱に乗じて、西暦18年、山東瑯琊(ろうや)の樊崇(はんすう)が起こした農民反乱。王莽の軍と区別するために眉を赤く染めたという。27年、劉秀(後漢の光武帝)によって平定された。]輜重を委ねて鄧禹を餌にするが如し是なり。
○張預:示すは小利を以て、誘いて之に克つ。楚人の絞を伐つは、莫敖曰く、絞小にして軽し、請う采樵する者扞むこと無かれ、以て之に應じ、是に於いて絞人楚三十人を獲りて、明日絞人争い出ると、楚の役徒山中に驅けて、楚人伏兵を山の下に設けて大いに之を敗るが若し是なり。
意訳
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○金谷孫子:[敵が]利を求めているときはそれを誘い出し、
○浅野孫子:こうした、いつも敵に偽りの状態を示す方法によって、敵が利益を欲しがっているときは、その利益を餌に敵軍を誘い出し、
○町田孫子:利にさといものには誘いの手をのばし、
○天野孫子:敵に利を与えて誘い出したり、
○フランシス・ワン孫子:餌を与えて敵を罠にかけよ。
○大橋孫子:また利益を見せて敵を誘い出し、
○武岡孫子:敵に有利な要所をわざと取らせて誘う。
○著者不明孫子:相手が有利であれば誘い出し、
○学習研究社孫子:敵が有利な条件にある時は、敵をこちらの有利なように誘いだし、
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誘-①先に立って説きすすめる。先導する。いざなう。②さそい出す。おびきよせる。③それが原因となって、ひきおこす。【解字】形声。「言」+音符「秀」(=穂が出る。先に立つ)。自分が先に立って言葉で人をみちびく意。
竹簡孫子以外は『利にして之れを誘い』につくる。
ここでの「利」は「利益」の意。これは偽りの状態をつくりあげ、自分側を有利な状態に導く戦法である。この文意に近いと思われる言葉で、虚実篇の「故に善く敵を動かす者は、これに形すれば敵必ずこれに従い、これに予(あた)うれば敵必ずこれを取る。利を以てこれを動かし、卒を以てこれを待つ。」や、軍争篇の「故に兵は詐を以て立ち、利を以て動き、分合を以て変を為す者なり。」などがある。いずれにせよ、この敵を誘い込む戦法は、消極的な戦法ではなく、自分が能動的になって相手を撃破せんとする場合に行うものである戦法であることに疑いはない。この積極的に相手を打ち破る場合の戦法として一例をあげると、虚実篇に「故に我れ戦わんと欲すれば、敵 塁を高くし溝を深くすと雖も、我れと戦わざるを得ざる者は、其の必ず救う所を攻むればなり。」と見え、また九地篇には「先ず其の愛する所を奪わば、則ち聽かん。」と見える。
この文の意を「敵に利益を見せて、誘い込んで撃つ」と解釈することは、狭義であろう。なぜなら、「害をみせてこちらの思う地点に相手を誘い込む」という戦法も考えられるからである。つまり、ここでの「利」の意味は、「自軍にとっての有利」となり、よってこの文の意味は、「敵が有利と感じるほうに誘い込む」というよりは、「自軍にとって有利であるように敵を誘い込む」のほうがより適当と考えられる。
よってこの文の意は「それゆえ、敵を「利」に固執させておいて、敵を誘い込み、」となるか、または、「それゆえ、自分を有利な状態にしておいて、敵を誘い込み、」となる。後者の意味は自分の「利」を以て動き、相手を誘い込む、ということである。この誘い込む戦法は、どちらにせよ現状を自分の有利な状況にもっていくことが目的であるから、後者の意味をおさえておけばこの戦法の基本は理解できていることになる。しかしながら奥深いと思われるのは前者の意である。人は「利」に固執する生き物であるから、これを戦場で応用すれば、「利」の適切な扱いは「相手の死」につながり「自軍の勝利」に繋がるということである。逆を言えば、「利」は自分をも殺すということである。「利」を生むことは敵に逆用されれば直ちに自分の「害」になるということである。しかしながら、このリスクを負わねば敵に勝つこともできないのである。また、相手に仕掛けられたときは見破り踏みとどまらねば「死」が待っているということである。それは自分にとって有利な状況にあると思っている矢先に「圧倒的不利」につながるのだから、将はよくよくこのことを念頭にいれておき、常に不敗の地に自軍をおくように心がけねばならないだろう。
ナポレオンは、人を動かすには「利益」と「恐怖」がもっとも有効であると言っている。確かに「利益」「恐怖」「不安」などは最も人に作用する要素であることは間違いない。しかし、「恐怖」「不安」のあとには人々は一致団結して戦うことがありえるのである。なぜなら「恐怖」などの苦難の経験のあとには仲間意識が芽生えやすいのである。一時的に敵を追い込み、誘導するといった点では大いに有効であろうが、時と場所での使い方を間違えると「恐怖」は「勇気」へと変わり、逆にこちらが追い込まれるということも考えられるのである。逆に「利益」は人をおぼれさせるにはもってこいである。人はいったん手に入れた利益は手離そうとはしない。手離すことは「恐怖」へと直結する。故に、目の前に大金を積まれても動じない、目先の大勝利にも目を奪われない、安易に行動に移すことを許さない懐疑精神が必要なのである。
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○金谷孫子:利にして…-以下の句は上文と句形が変わり、解釈に異説が多い。「而」の上の「利」「乱」などの字をすべて敵方に属するものとみて、統一的に解釈することにした。
○天野孫子:敵に小利を与えて敵を味方の思うところにさそい出す。『諺義』は「利を与へて、彼を引き出し、あざむきうつなり。誘ふと云ふは、いつはりてさそひ出す心なり。彼を引き出すには利を与ふるにあるなり。小利をかれに与へて大利をうるの心を以て本とするなり」と。
○フランシス・ワン孫子:一、「利して之を誘う」 これは、いつの時代いずれの国家に於ても、新しき手段として常に用いられる所である。梅堯臣は「彼れ利を貪らば、則ち貨を以て之を誘え」と註しているが、以て、その本質を知るべきであろう。
○守屋孫子:有利と思わせて誘い出し、
○田所孫子:利而誘之とは、相手方を如何にも有利なように思わせて、こちらの思う壺に誘いこんで来ること。
○重沢孫子:敵に対して、いま我を攻撃すれば有利であると判断するようにしむけ、実は敵を引き寄せて打撃を与える。
○著者不明孫子:【利而誘之】敵が有利であれば、それをえさにして敵をおびき出す(敵が誘いに乗って動きだしたところを撃つ)。諸注みな、利によって敵を誘惑する、敵に有利なように見せかけて誘いだす、などの意味に解するが、それでは「利而」の解釈が以下の諸条と照応しない。
○諺義:利を與へて彼れを引出し、あざむきをうつ也。誘と云ふは、いつはりてさそひ出す心也。彼れを引出すには利を與ふるにある也。小利をかれに與へて大利をうるの心を以て本とする也。利をあたふるとは、あへしらひ(應答)勢を出して、引きかくる也。或は小(すこ)し退き、或はわざと兵をみだし、彼れに利を與ふ、或はつねに財利を與へて、かれをあざむくの心もあり。
○孫子国字解:『利して之を誘(あざふ)き、亂(みだ)して之を取る』 『利して之を誘き、亂(みだ)れて之を取る』 利とは、敵の好むことを云なり。或は財寶米粮を取らせ、或は國郡を與へ、或は一旦の勝利を與へなどすることなり。誘くとは、だまし引出すことなり。是は城に引こもり、或は要害を固めて、出ざる敵或は戰まじき圖を守りて、戰はざる敵などを、彼れが好むことにて惑はして、是を引出すことなり。亂而取之とは、てだてを以て敵の亂れぬ備をみだして、是を打取るなり。むかし秦の苻堅(ふけん)と晉の謝玄、淝水(ひすい)と云川を夾(はさ)んて陣を取る。謝玄使を遣はして、少し備をあとへくり玉はば淝水を濟て合戦を仕らん。かやうに川を夾んで對陣しては、せんもなきこと也と云、苻堅尤とて備をあとへくる。其意謝玄が軍勢の川を半ば濟る所を、討んと思てなり。半渡を撃つと云は、古の兵法なれども、苻堅の軍兵二十萬にあまる大軍を、あとへくらんとせしかば、備忽亂れたり。謝玄兼て苻堅が半渡を撃つの計を用んとて、備の亂るるをは思ひつくまじと察して、右の如く申し遣したるに、案の如くてだてにのりたるゆへ、一戦にてこれを敗る。これ亂而取之のはかりごと也。或は火をかけ、馬を切てはなしなどして、敵陣を亂す計は、其品いくらもあるべし。また手前を亂して敵をかからせ、是を打取ると云説あり。是は上の利而誘之と云意なり。亂而取之と云とは、少しとをき説なり。又本文を、みだれてこれを取とよみて、敵國の政道亂れて、埒もなきと知らば、速にこれを攻取り、或は城中陣中の法の亂れたるを、亂れに乗じて攻落し、或は備の亂れ、足並の定まらぬを討取る類も、亂れて取之なり。みだれて、みだして、兩點何れも用べきなり。或説に、みだしてと讀時は、此方より計を以て亂すことゆへ、詭道なり。みだれてと讀時は、彼れが自分と亂れたるを攻取るゆへ、正道にて、詭道に非ず。此段は、兵の詭道を説たる處なれば、みだしてとよむ説、然るべしと云ものもあれども、最前にことはる如く、詭道と云は、強ちにいつはりたばかるばかりに非ず。千變萬化して、一定の格を守らぬことなれば、兩説ともに用べし。
○杜牧:趙将李牧大に畜牧を縦にす。人衆野に満つ。匈奴小く入る。佯北は勝たず。數千人を以て之を委ねる。単于之を聞きて大いに喜び、衆を率いて大いに至る。牧 多く奇陳を為す。左右夾みて撃つ。大いに破りて匈奴十餘萬騎を殺すなり。
○賈林:利を以て之を動かす。動けば而して形有り。我れ形に因りて勝ちを制す所以なり。
○梅堯臣:彼 利を貪れば則貨を以て之を誘う。
○何氏:利にして之を誘うとは、赤眉[せきび‐の‐らん【赤眉の乱】 前漢を倒した新朝の王莽(おうもう)の失政による社会の混乱に乗じて、西暦18年、山東瑯琊(ろうや)の樊崇(はんすう)が起こした農民反乱。王莽の軍と区別するために眉を赤く染めたという。27年、劉秀(後漢の光武帝)によって平定された。]輜重を委ねて鄧禹を餌にするが如し是なり。
○張預:示すは小利を以て、誘いて之に克つ。楚人の絞を伐つは、莫敖曰く、絞小にして軽し、請う采樵する者扞むこと無かれ、以て之に應じ、是に於いて絞人楚三十人を獲りて、明日絞人争い出ると、楚の役徒山中に驅けて、楚人伏兵を山の下に設けて大いに之を敗るが若し是なり。
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○浅野孫子:こうした、いつも敵に偽りの状態を示す方法によって、敵が利益を欲しがっているときは、その利益を餌に敵軍を誘い出し、
○町田孫子:利にさといものには誘いの手をのばし、
○天野孫子:敵に利を与えて誘い出したり、
○フランシス・ワン孫子:餌を与えて敵を罠にかけよ。
○大橋孫子:また利益を見せて敵を誘い出し、
○武岡孫子:敵に有利な要所をわざと取らせて誘う。
○著者不明孫子:相手が有利であれば誘い出し、
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