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孫子研究ブログです。孫子兵法は別名『孫子兵経』、『SUNTZU』、『The Art of WAR』ともよばれています。ナポレオンや毛沢東も愛読していました。注釈者には曹操、杜牧、山鹿素行、荻生徂徠、新井白石、吉田松陰、等の有名人も多いです。とにかく深いです。

孫子 兵法 大研究!トップ⇒本文注釈:孫子 兵法 大研究!
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2013-01-05 (土) | 編集 |
孫子 兵法 大研究!

本文注釈:孫子 兵法 大研究!

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『国の師に貧なるは、遠き者遠く輸せばなり。遠き者遠く輸さば則ち百姓貧し。』:本文注釈

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貧-①財産・収入がとぼしい。まずしい。②足りない。みすぼらしい。【解字】形声。「貝」(=財貨)+音符「分」(=わかれる)。財貨が分散して少ない、まずしいの意。

輸-①(車で)物を運ぶ。別の所へ移す。送りとどける。②まける。やぶれる。ばくちに負けて、かけ金が他者の手にうつる意。【解字】形声。「車」+音符「兪」(=移す)。車で別の場所に運び移す意。

百姓-ひゃく‐しょう【百姓】‥(ヒャクセイとも)一般の人民。公民。





○天野孫子:○国之貧於師者遠輸  「国」は一国、国家の意。一説に「国」と下の「百姓」とを同一視して『新釈』は「この遠輸の為に民百姓が貧乏するから、従って国家が貧乏するといふのである」と。「師」は多くの人々。ここでは大軍。「貧於師」は大軍のために貧窮する。「遠輸」は食糧などの軍用品を輸送すること。なにを輸送するのか、この文から明確に知り得ないが、一応食糧などの軍用品と解する。『新釈』は「兵糧・武器等を遠征軍の出先へ輸送すること」と。
 ○遠輸則百姓貧  「百姓」は庶民。百姓が遠輸で貧窮するのは、物資を輸送して百姓の物資が欠乏するからであろう。一説に『諺義』は「人民遠所にいくさだち致し、用器を運び道路につかはれて百姓ことごとく貧しくなるなり。…是は国中の百姓の役に苦しみ貧しくなるの故を云へり」と。

○フランシス・ワン孫子:註 「百姓貧し」の言、孫子の声調には真に悲痛なものがある。戦争特に長期戦は、必ず重税を伴う。重税と労役は忽ち国民を疲弊させ、それは軍隊の基盤を危うくする。ドゴールは「軍隊の士気が決定するのである」(剣の刃)と。

○守屋孫子:戦争で国力が疲弊するのは、軍需物資を遠方まで輸送しなければならないからである。したがって、それだけ人民の負担が重くなる。

○田所孫子:○国之貧於師者、遠輸とは、国家が軍隊を動かすことによって財政窮乏に陥るのは、軍需品を遠方の戦場に輸送するからであるとの意。

○重沢孫子:国が軍隊を動かしたために貧しくなるのは、物資の遠距離輸送による。遠距離輸送をやると、百姓(身分なき庶民)は貧困化する。

○佐野孫子:【校勘】遠者遠輸、遠者遠輸則百姓貧  「十一家註本」、「武経本」では「遠輸、遠輸則百姓貧」と作るが「竹簡孫子」には「遠者遠輸則百姓貧」とある。中国「銀雀山漢墓竹簡整理小組」編の『孫子兵法釈文校註』(以下「釈文校註」と言う)によれば、「通典」では「遠師遠輸、遠師遠輸者則百姓貧」と作るため、これを校勘するに「竹簡孫子」の「遠者遠輸」四字の右側残欠部分に反復記号(これは竹簡中かなりの頻度で散見される)が附されていた疑いがあるとする。それによれば本句は「遠者遠輸、遠者遠輸則百姓貧」と読まれる。この方が文意がより明確となって適当であるため、ここではこの説に従って改める。因みに「通典」の「遠師遠輸」は次句の「近師者貴売」を意識して改めたものと思われるが、この「近師」は「遠師」に対するものではなく「近市」の意と解せられること、又、戦争遂行のための物資の大量調達による物不足は遠師、近師を問わず起こるものであるから、その意味で「遠者」を「遠師」とするのは適当ではない。

○著者不明孫子:【貧於師】戦争のために窮乏する。「師」は軍隊。ここでは戦争。
 【遠輸】「輸」は輸送する。

○孫子諺義:『國の師に貧しき者は遠く輸(いた)せばなり。遠く輸すときは則ち百姓貧し。師に近き者は貴(たか)く賣る。貴く賣るときは則ち百姓の財竭く。』
 輸は運也、云ふ心は、師を起すの國は、必ず財用貧しきもの也。そのゆゑは、人民遠所にいくさだちいたし、用器をはこび道路の運送につかれて、百姓ことごとくまど(貧)しくなる也。遠く輸すとは、遠方へ物をもちはこび往來いたすを云へり。是れは國中の百姓の役にくるしみまどしくなるのゆゑをいへり。さて師場にて云ふときは、四方よりあつまる處の商買人、軍場へ出でて買賣せしむるは、命をすてて交易を事とするゆゑに、諸色常のあたひに十倍す。是れ師に近き者は貴く賣る也。たとひたかしといへども、其の物其の品によつて買ひとらざれば叶はざるがゆゑに、下々ことごとく財を失つて財竭くるにいたる也。是れ外軍場において雑兵諸人のつひえ也。凡そ戦場へのぞむもの、兵士は少くして雑兵下人多し。兵士は諸國よりのあつまり勢あり、雑兵下人は皆國内の百姓也。ことに異國は農兵と號して、百姓の内より役にて兵士をこしらへ出すゆゑに、兵士も所の百姓也。この段の百姓は兵士雜人ともにかけて、見る可き也。大全に云はく、遠輸の害は、孫子の言、其の詳盡を極むと謂ふ可し。然りと雖も猶ほ言ふ可き也。唯だ中途接せざれば、則ち師に近き者必ず貴く賣る。貴く賣るときは軍に於て買はざるを得ず。但し軍に於て價一分を加ふれば、即ち民に於て賦一倍を加ふ。而して百姓の財竭く。勢必ず丘役(春秋時代の賦税。次節に出づ)供給の家に急にす。又云はく、古くは兵民分れず、故に三軍財竭くと言はずして、百姓財竭くと曰ふ、丘役供給の人、自然意を要す。

○孫子国字解:これより下、十去其六と云までは、又前の意を反復して、遠境へ軍を出すこと、上下共に費多きことを云て、十去其七と云までは、其内にて取りわきて下の疲れを云、この一段は、下の費の内にて、領内の疲れを云なり。國とは領分の民を云。貧於師とは、軍陣あるゆへに、勝手あしくなることなり。遠輸とは遠國へ兵糧をはこぶことなり。領分の民の軍陣ゆへに、勝手あしくなり、貧乏すると云は、遠國へ兵糧を運ぶ故なりと云意なり。尤近境にて戦ふも、事なきにはしかざれども、遠國へ兵糧を運ぶこと、民の大きなる愁なる故、かく云へり。遠輸則百姓貧とは、遠國へ兵糧を運ぶ時は、領分の民百姓、かならず貧困するなり。

○孫子評註:『國の師に貧しきは遠く輸すればなり(軍隊のために国が貧しくなるのは、兵糧を遠方まで輸送するからである。)。遠く輸すれば則ち百姓(人民)貧し。』
 又尋常の兵略を説くこと一番。上の軍食より遠輸を拈出(文句などを考え出すこと。)(ねんしゅつ)し、文反(かえ)つて前と犯さず。

○孟子:兵車 千里の外に轉運すれば、財則ち道路に費やし、人困窮する者有り。

○李筌:兵役數た起りて、賦斂[ふ‐れん【賦斂】税を割り当ててとりたてること。]重し。

○杜牧:管子曰く、粟三百里行けば、則ち國一年の積無し。粟四百里行けば、則ち國二年の積無し。粟五百里行けば、則ち衆飢色有り。此れ粟重き物軽きを言うなり。推移する可からず。之れ推移すれば則ち農夫耕牛俱に南畝[①せ。耕地面積の単位。一畝は一反の十分の一。三十歩。約一アール。周代には百歩を一畝(ぼう)とした。②畑のうね。【解字】会意。「亠」(=十)+「田」+「久」(=あし。あるく)。十歩あるいて測る十歩平方(=百歩)の田畑の面積を表す。]を失う。故に百姓貧しからざるを得ざるなり。

○賈林:遠輸すれば則ち財道路に耗(へ)らし、轉運に弊し、百姓日(ひび)に貧し。

○張預:七十萬家の力を以て、十萬の師を千里の外に供せば、則ち百姓貧しからざるを得ず。


意訳
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○金谷孫子:国家が軍隊のために貧しくなるというのは、遠征のばあいに遠くに食糧を運ぶからのことで、遠征して遠くに運べば民衆は貧しくなる。

○浅野孫子:国家が軍隊を起こしたために貧しくなる原因は、遠征軍が遠くまで補給物資を輸送するからである。遠征軍が遠方まで補給物資を輸送すれば、その負担に耐えかねて、民衆は生活物資が欠乏して貧しくなり、

○町田孫子:国家が戦争のために窮乏するのは、遠征して遠くまで食糧を運ばなければならないからである。遠征して遠くまで食糧を運べば民衆は貧しくなる。

○天野孫子:国家が大軍のために貧窮するのは、遠方に食糧などの軍用品を輸送するからである。遠方に食糧などの軍用品を輸送すれば、国民は貧窮する。

○フランシス・ワン孫子:国家が戦争のために窮乏するのは、遠距離に輸送するのが原因である。遠隔の戦地に対する補給は国民を疲弊させる。

○大橋孫子:戦争で国が貧しくなるのは遠征して、輸送距離をのばすからである。輸送距離がのびれば国民は貧窮する。

○武岡孫子:国の財政が窮迫するのは、遠征部隊の食糧を運ぶからで、税金を払う民衆は貧しくなる。

○著者不明孫子:国が戦争のために窮乏するのは軍糧を遠くまで運ぶためで、遠くまで運べば民衆は困窮する。

○学習研究社孫子:国家が軍隊のために貧しくなるというのは、食糧や資材を遠くへ輸送するためである。遠くへ物資を輸送すれば、臣下や人民は貧しくなる。

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2013-01-02 (水) | 編集 |
孫子 兵法 大研究!

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『用を国に取り、糧を敵に因る。故に軍食足る可きなり。』:本文注釈

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どの注釈者も『軍食』を「兵糧」と解釈しているが、ここでの『食』の意味は、「養う」の意味であろう。この文の意味は、「『用』(軍の器材・諸用具などの軍需品)を自国から補給し、『糧』(兵糧)を敵から奪うことで、軍を十分に養っていくことができる。」となる。この「軍食」の解釈の仕方は「用を国内で賄うこと」も考慮に入れなければならず、「糧を敵に因る」の文だけで「兵糧」と解釈するだけでは片手落ちになってしまう。


敵-①対等に立ち向かう。相手になる。②戦争や競争の相手方。③うらみに思う相手。かたき。あだ。【解字】形声。音符「啇」(=まっすぐに当たる)+「攵」(=動詞の記号)。まともに立ち向かう意。

食-①たべものをくう。くらう。たべる。②生活のかてを得る。禄をはむ。③めしをくわせる。やしなう。④めし。たべもの。⑤少しずつくいこむ。むしばむ。【解字】会意。(=あつめてふたをする)+「艮」(=器に穀物を盛った形)。食器に食物を盛ってふたをする意から、たべもの(をくう)の意。





○天野孫子:○取用於国  「用」は用いるもの、道具の意。『諺義』は「用は軍用なり。器械・兵具・諸用物のことなり」と。「国」は自国を言う。『諺義』は「国の字は敵の字に対して我国にかかるなり」と。この句について魏武帝は「兵甲戦具、用を国中に取る」と。
 ○因糧於敵  この句について魏武帝は「糧食は敵に因る」と。一説に『直解』は「糧食足らざれば則ち敵人に掠取す」と。これに対して『評註』は食糧を買い取ると解して、「因糧を以て専ら侵掠と為すは兵に浅し」と。以上の四句について、論者の意図するところが不明である。前二句の「役不再籍」と「糧不三載」とは前段の文の拙速に関連して速戦速決のための限界を示すものと理解されるが、後二句の「取用於国」と「因糧於敵」は何を表明するものであろうか。「因糧於敵」は速戦速決のための限界を超えた場合の方法を示すと解するならば、その間にある「取用於国」は何を表明するものであろうか。「用」は自国に依存し、「糧」は敵国に依存するについて、張預は「器用、国に取るは、物軽くして致し易きを以てなり。糧食敵に因るは、粟重くして運び難きを以てなり」と解しているが、それについて『国字解』も言うように、攻城の具、雲梯・望楼の類は決して軽くない。また『講義』は「器用は其の便を欲す。故に必ず国に取る」と。『兵法択』も「夫れ五方、器を成し、制度、巧を異にす。之を国に取るは其の用に適する所以なり」と言うが、『国字解』も指摘するように、敵の兵器は味方の役に立たないことはないであろう。そこで『国字解』は「取用於国と云ふ句も、下の因糧於敵と云ふ句を云はん為に、本国より持ち行かずして叶はぬ物を云ひたるなり。…兵具の類も、損失多き時は、敵の兵具を奪って時の用をたすも、戦場の通法なり。況んや此の篇の末にも、敵の車を奪ひ取つて用ひることを云ひたれば、強ちに本国の器用ならでは用ひざれと云ふことには非ず。唯兵糧を本国より運ぶこと、費多きことを云はん為に、言ひたる句なりと軽く見るべきことなり」と。しかし論旨を曖昧にしてまで「取用於国」を軽く添えるということになお問題があろう。
 ○軍食可足也  この句は前句の「因糧於敵」から展開するもの。一説にこの句は「軍用」を省略していると。『発微』は「軍用・軍食、足る可きなり」と。

○大橋孫子:用を国に取り-軍費、軍用品は本国から追送する

○武岡孫子:大橋孫子に同じ。

○佐野孫子:◎取用於国  「用」は用いるもの、道具の意。ここでは軍の器材等の諸用具を指す。
 ◎因糧於敵  糧食を敵地に依存する理由の一つは次のことにある。即ち、糧食は兵用・装具とは性質を異にし、輸送に大量の馬匹・車輛を必要とする上に、生鮮食料品は長期保存が困難で、中途の損耗が甚だしいからである(F・ワン仏訳「孫子」)。尚、「糧は敵(地)に因る」とは、必ずしも、「敵より掠取す」の意に非ず。謀(はかりごと)を巡らし現地調達によりこれを確保せよ、の意と解する。

○守屋孫子:装備は自国でまかなうが、糧秣はすべて敵地で調達する。だから、糧秣の欠乏に悩まされることはない。
 ■敵の軍需工場はわれらの武器庫
  敵の装備や兵器を奪取して味方の戦力を増大させていけば、「勝ってますます強くなる」のも道理である。近年これをやって、みごと『孫子』の説を実証してくれたのが、中国の人民解放軍である。第二次世界大戦中、連合軍はしきりに蒋介石の国民政府軍に武器・弾薬をはじめ、さまざまな軍需物資を援助した。国民政府軍は日本軍との戦いを回避して、もっぱら共産党との内戦に、それらの武器や軍需物資を投入したが、次々に敗北を喫し、連合国からの援助物資は国民政府を経由して共産党の側に渡っていったのである。だから、同時、毛沢東は、満々たる自信をもって、こう言い切ることができたのだ。「われわれの基本方針は、帝国主義と国内の敵の軍需工業に依存することである。われわれはロンドンと漢陽の軍需工場に権利をもっており、しかも敵の輸送隊がこれを運んでくれる。これは真理であって、けっして笑い話ではない」(『中国革命戦争の戦略問題』)。

○田所孫子:○取用於国とは、兵機・武具等は故国から取り寄せるとの意。
 ○因糧於敵とは、兵糧は敵国のもので間に合わせるとの意。
 ○軍食可足也とは、軍隊の糧食にはそれで間に合わせることができるとの意。

○フランシス・ワン孫子:註
 「糧は敵に因る」 一般には、敵地に全面的に依存するの意とされ、なかには掠奪によって調達するの意とする者も少なくない。これに対し、仏訳は、その不足分は敵地にて補充するの意と解して妥当である。戦史を繙(ひもと)けば明らかであるが、古代でも、糧食のすべてを敵地に依存することが可能な場合は少なく、まして掠奪を行った場合は、忽ち四散。涸渇して、今日の用は充足しても、却って明日からの用に苦しむ因となるのが通例であった。当時の農業生産の実態から見て当然であろう。このため、智将は、特別な場合を除いては適当な対価を払うことにつとめている。当時でも、対価を払う所には物資は集まっているのである。この問題は後にも出てくるが、掠奪論者は、孫子は「敵(地)に因る」と言っているのであって、「敵より掠取す」などと言ってはいないことに注意すべきである。糧食を敵地に依存する理由の一つは次のことにある。即ち、糧食は兵用・装具とは性質を異にし、輸送に大量の馬匹・車輛を必要とする上に、生鮮食糧品は長期保存が困難で、中途の損耗が甚だしいからである。張豫は「糧食を敵に因るは、粟(ぞく)は重くして運ぶに難きなり」と註している。なお、敵地に徴発するのは敵を疲弊させるためといった解釈をする者もいるが、短期戦の場合、準備した敵に対しては効果が薄く、それに、これは、「故に軍食足るべきなり」の言を忘れた見解である。

○重沢孫子:つまり、戦闘用具は本国において調達し、食糧はあくまで敵に倚存する。だからこそ軍の食糧を充足しておけるのである。

○著者不明孫子:【取用於國】 「用」は費用・経費。ただし、兵器・甲冑その他の用具と解するのが曹操以下諸注の説。それらを国内から調達する。
 【因糧於敵】 食糧は敵地のもので賄う。「因」は依存する意。

○孫子諺義:『用を國に取り、糧を敵に因る、故に軍食足る可し也(原本の訓點により也を讀まず、素行は屢々讀まざる習慣なり)
 用は軍用也、器械兵具諸用物のこと也。國は我が國也、糧は粮食也。云ふ心は、軍旅の法、諸用物は國中にて用意せしめて持參いたすこと也。食物は國内より運送いたさんには、甚だ人馬舟車のつかれつひえなるがゆゑに、其の働き入る國々へ、先んじて郷導を入れ、地下人を引入れて、粮食の多きごとくならしむべし。是れ用を國に取り、糧を敵に因る也。此の如きときは軍中粮食かくることあらざる也。敵に因ると云ふは、敵のかくし置く粮を奪取亂妨せしむる類を云ふにはあらず、先んじて敵國へ間人を入れ、使をつかはし、所々に兵粮をあつめおくこと也。尤も其の便なからんには、亂取亂妨も仕る可し。又敵の兵粮をとるにたよりよくばこれを奪ふ可き也。國の字は敵の字に對して我が國にかかる也。器械用具等は國俗に隨つて兵士の長ずる所有り、又得ざる處あり、故に國に取ると云ふ。取るはこしらへ作るの心也。竹木金鐵の入るものなれば、取ると云ふ也。取は易き心と云ふも亦通ず。因はちなむ心也、敵國にたよりて用ふると云ふ心也。凡そ千里の遠きに軍を出すと云へども、千里ながら敵國の地を行きてかれをうつと云ふにはあらず。我が國をはなれて一里出でたりとも、敵つよくささへばそれより先へは行くこと叶ふ可からず。しかれば千里先へ行けば、そのつかへて行く能はざるの地までは、皆我が手に入りたる地ならずしては動き入る(「動入」は「働入」と同様に使用せるらし、或は動は働の誤記か)ことを得可からず。たとひ敵地なりとも或は道をかりゆくときは、是れ又粮食にことをかくべからず。然れば孫子が糧を敵に因ると云ふの心、全く是のはたらく所々へ兵粮をあつめしめて、こなたより運漕せしめざるを云ふ。又云はく、千里粮を饋ると云ふは、千里こなたより糧をもちはこぶと云ふにあらず。千里に軍だち(立)あれば、近國より粮食をあつめざれば、十萬の兵食足らず、このゆゑに四方の兵粮をまはす。是れ千里粮を饋ると云へり。此の説尤も相通ず。袁了凡云はく、此の言用兵之利、食を足らすに在り。以上第二段。

○孫子評註:『用を國に取り、糧を敵に因る。』(必要な器材は自国から持って行き、兵糧は敵国のものを使う。) 
 大議論、唯だ八字を用ふるのみ。用は資用なり。資用は輕くして致し易し。故にこれを國に取る。資用を散じて糧食を収む、自ら深謀ありて存す。糧に因るを以て、専ら侵掠と為すものは兵に淺し(戦争に関する知見の浅いものである。)
 『故に軍食足るべきなり。』
 「軍食足るべきなり」の一句乃ち了す、復た縦論せず(ほしいままに論ずること。)。灰蛇草線(松下村塾発行の木版本には灰線草蛇とある。奇妙な言葉で、恐らく松陰の造語であろう。)[文法で、草蛇灰線法というのがある。これは特定の語彙を繰り返す文法を言う。松陰の造語ではない。]、作法奇眩なり。軍食足らば則ち久し(長期に戦争する。)と雖も三たび載するを待たず。其の戦、必ず利に合して動き、士卒を殺さず、故に再び籍するを待たず。用を取りて糧に因る、功效是(か)くの如し。是れ孫子本色の議論なり。

○曹公:兵甲戦具、用を国中に取る。糧食は敵に因るなり。

○杜佑:兵甲戦具用を國中に取る。糧食は敵に因るなり。資用を我が國に取る。糧食を敵の家に因るなり。晋の師 穀を楚に館すは是れなり。

○李筌:我れ戎器を具え、敵の食に因る。師を出すこと千里にすと雖も匱乏(とぼ)しきこと無きなり。

○梅堯臣:軍の須用[必要とするもの]は國に取りて、軍の糧餉[りょうしょう:兵糧]は敵に因る。

○何氏:因って兵 境を立て聚(しゅう)に鈔(かす)めて野に掠(かす)め、敵に克ちて城を抜くに至りて、其の儲けを積み得るを謂うなり。

○張預:器用を國に取るとは、物を輕くして致し易きを以てなり。糧食を敵に因るとは、粟を重くして運び難きを以てなり。夫れ千里に糧を饋らば、則ち士 飢える色有り。故に糧に因らば則ち食足る可し。


意訳
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○金谷孫子:軍需品は自分の国のを使うけれども、食糧は敵地のものに依存する。だから、兵糧は十分なのである。

○浅野孫子:戦費は国内で調達するが、食糧は敵地に依拠する。このようにするから、兵糧も十分まかなえるのである。

○町田孫子:当初の装備は自国にまかなわせるが、その後の食糧はすべて敵国のものに依存する。そうしてこそ、食糧は確保できるのである。

○天野孫子:軍の器材などの諸用具は自国のものではたし、食糧は敵国のものをたよりとする。従って全軍の食糧は充足することができる。

○フランシス・ワン孫子:武器・装備は自国で調達するが、糧食の不足は敵地にて補充する。(但し、敵地の供給能力を充分に考慮しなければならない)こうすれば、軍はたっぷりと給養されることとなる。

○大橋孫子:軍費、軍用品は本国で調達するが、大きな輸送力を必要とする糧秣は敵地で調達し、追送はしない。ゆえに糧秣に不足することはない。

○武岡孫子:軍需品は自国のものを使うけれども、食糧は敵地のものを奪って賄う。だから兵糧は十分なのである。

○著者不明孫子:経費は国内で賄うが、食糧は敵地のを用いる。そうすれば軍糧は十分に確保できる。

○学習研究社孫子:資材は国内から取り、食糧は敵地に依存する。このようであれば、軍の兵糧は十分である。

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2012-12-24 (月) | 編集 |
孫子 兵法 大研究!

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『善く兵を用うる者は、役は再びは籍せず、糧は三たびは載せず。』:本文注釈

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役- 一 ①ヤク 割りあてられた仕事・任務。つとめ。職分。②割り当てられた(特別の)はたらき。二、エキ 支配者が人民の労力を使う。働かせる。①人民に課された義務労働・租税。えだち。②いくさ。戦争。「慶長の役」「戦役」兵として役使される意から。【解字】会意。「彳」(=ゆく)+「殳」(=ほこを手に持つ)。武器を持って遠くへ行く意。転じて、苦しいつとめをする意。

再-二回。もう一度。ふたたび(する)。【解字】指事。「冉」は「冓」(=木を組みあげた形)の省略体。その上に「一」印を添え、同じ物がもう一つ加わる意を示す。

籍-①文書。書物。②人別・戸別・地別などを記した帳簿(への登録)。【解字】形声。「竹」+音符「耤」(=重ね合わせる)。竹簡を積み重ねたものの意。

載-①車や舟に積み込む。上にのせる。②書物や帳簿に書きとめる。③年。歳。【解字】形声。「車」+音符(=断ち切ってとめる)。荷物がずり落ちないよう車の上にしっかりとめる意。



用兵がうまい者は、兵役も食糧の運搬も最小限に抑えるということである。戦争をおこすとなると、最も注意しなければならないのが『遠征にかかる労費』である。遠くに軍事物資を運べば、戦力を消耗するなど、いろいろ大変なことが起きる。兵を徴発すれば民の蓄えもなくなる。ゆえに自国の備えはできるだけ損せずして、敵国の軍事物資を奪うことで軍をまかなうようにするのが理想である。





○金谷孫子:一 役は再びは…兵士は一度徴発して出陣すると、必ずそれで勝利をかちとって、補給はしない。 二 糧は三たびは…出陣のとき食糧を運び、凱戦[凱旋-がい‐せん【凱旋】(「凱」は戦勝に奏する楽。「旋」は帰る意)戦いに勝って帰ること。]のときにまた母国から運ぶ。前後の二回のほかは運搬しない。戦争中は敵地で食糧を取る。

○浅野孫子:●役-戦費調達のための臨時の軍事税。後文の丘役と同じ。
 ●籍-帳簿に名前を記載して割り当て、税を徴収すること。

○町田孫子:<役は再びは…>いちど徴発した兵員で勝をおさめて、追加補充はしないという意味。
 <糧は三たびは…>食糧は出陣のときと凱旋のときと、二回だけ自国から運ぶ。

○天野孫子:○役不再籍 「役」は民にわりあてる課役、ここでは兵役を言う。杜牧は「鄭司農の周礼註に曰く、役とは兵役を発するを謂ふ」と。鄭司農とは後漢の鄭玄。「籍」は戸籍。『詳解』は、「籍の字は諸解一ならず。宜しく籍書と釈すべし。…古は兵役を調し賦税を収むるに、皆名籍・戸籍に因りて之を調収す。故に調収を謂ひて直に籍と曰ふ」と。「不再籍」とは、地域毎に一定の徴兵数があって徴兵するが、ここでは更に追加して地域毎にわりあてて徴兵することをしないの意。この句について趙本学は「役とは丘甸の役なり。籍とは兵を召すの符籍なり。按ずるに、司馬法に、八家を井と為し、四井を邑と為し、四丘を甸と為す。甸は六十四井。五百十二家。民の数、概して中家を以て之を計れば、一家六人。五百十二家は千二百八十八人なり。七十二人を択び、司馬に籍し、以て征伐に備ふ、と。役に再籍せずとは、師を成して以て出で、一挙にして即ち勝つ。復(また)再び丘甸の役を籍して、以て師を済さざるを言ふ」と。一説に「籍」を借る意として陳皡は「籍とは借るなり。再び民を借りて役せざるなり」と。また一説に「籍」を賦(ふ)すと解して、魏武帝は「初め民を賦して便ち勝を取り、復(また)国に帰りて兵を発せざるなり」と。賦とはここでは朝廷がわりあてによって兵士を出させること。
 ○糧不三載 「載」はのせて運ぶ。この句は将兵と牛馬との食糧は三度も輸送しないの意。二度運ぶ食糧で戦争を終わらせることを言う。趙本学は「軍出づるときは、糧を載せて以て之を送る。国に帰るときは糧を載せて以て之を迎ふ」と。なお前句の「再」とこの句の「三」について一説に『略解』は「再・三の二字互文。しばしばと云ふ事なり。先輩再を両度、三を三度となすは非なり」と。

○守屋孫子:戦争指導にすぐれている君主は、壮丁の徴発や糧秣の輸送を二度三度と追加することはしない。
 ※役、再籍せず 役は兵役、再籍は二度にわたって徴用すること。名将は戦いを早期に終結させるので、二度徴用することはしないの意。
 ※糧、三載せず 載は車にのせて運ぶこと。軍糧を三回も戦場に運ぶことはしないの意。

○フランシス・ワン孫子:註 何れも、名将は再動員を必要とするような戦争は行わないことを言うのである。

○田所孫子:○役不再籍とは、人民を徴発して兵役に服せしめる、その徴発人民登録簿に二度とは登録しないとの意。
 ○糧不三載とは、兵糧を何回も車に載せて国から戦場へ運ぶことはしないとの意。

○大橋孫子:役、再び籍せず-再び兵役につかせない 糧三たび載せず-三度は、本国から糧秣を送らない

○武岡孫子:役は再び籍せず-再び兵役につかせない 糧は三たび載せず-三度は本国から糧食を送らない

○佐野孫子:◎役不再籍 「役」は民にわりあてる課役、ここでは兵役をいう。「籍」は戸籍、すなわち戸ごとに兵士を徴発することをいう。この句は、地域毎に一定の徴兵数があって一回は徴兵するが、更に追加して徴兵することをしないの意。
 ◎糧不三載 「載」はのせて運ぶこと。この句は将兵と牛馬との食料は三度も輸送しないの意で、二度運ぶ食料で戦争を終わらせることを言う。

○重沢孫子:用兵の上手なものは、人民を兵役に二度とは登録せず(徴用は一回だけ)、軍の食糧は二度[重沢孫子記載の原文には「役不再籍。糧不二載。」とある。]と車に積載しない(本国からの食糧の積出しは最初の一回かぎり)。

○著者不明孫子:【善用兵者】「者」は「人」を表すとはかぎらない。「物」でも「事」でも、「場所・時・場合・方法…」その他いかなる名詞の代わりにも用いられる。ここは「人」でも通じないことはないが、どうもしっくりしない点がある。以下「者」の字はたくさん出てくるが、その場に応じて何を表しているかを読み取る必要がある。
 【不再籍】「籍」はここで兵籍簿・徴兵簿。また、その名簿に登録し、兵士として徴集すること。「再籍」は兵役に服する者の登録・徴集を二度繰り返して行うこと。同じ人を再度徴集する意に解することもできる。
 【不三載】最初に食糧を車に積んで出陣するのが一回、勝って凱旋するときに食糧を積んで出迎えるのが一回、その間戦争中は下文にあるとおり食料は敵地で調達するから、食料を車に載せて出かけるのは前記二回だけで三回は載せないと解するのが曹操以下の通説のようであるが、「三」の数にとらわれすぎた解釈と思われる。「三」は必ずしも三回とはかぎらず、「何回も」の意であろう。戦争開始の際に食糧を積んで出陣して、そのあとは何度も(端的にいえば「一回も」)自国から食糧を輸送しないとの意。ここも「不再載」でもよいのだが、上の「再籍」に対して語を替えて「三載」としたもの。

○孫子諺義:『善く兵を用ふる者は、役再び籍(しる)さず、糧三たび載(の)せず、』
 是れは速にして久しくす可からずの引證をいへる也。役は民間より出す課役也、田畠の多少について役の品あり。籍は書籍也、民間の役をかきつけしるすを云ひ、又籍符と注す、同義也。李筌・杜牧・直解之れに從ふ、又借也と注す。民を籍(か)りて兵とするのこと也。陳皡の説及び講義之れに從ふ、乃ち農兵の心也、民を用ひて兵とする也。又擧也、魏武注には賦也と注す。いづれも民に役を云ひつくるを籍と云ふ也。云ふ心は民の課役一度にて埒をあけ、粮食の運送を三度までは、もちはこばざるごとくいたす。是れ速にして久しからざるの證據に兵を善くする者のいたしやうを云へる也。三載とは始め糧を持參し、其のあとよりおくり、後に又粮をむかふる、是れ隨糧・繼糧・迎糧の三度也。李卓吾の注は是れ也。魏武の注にも、始め糧を載せ、後食に敵に因り、兵を還して國に入り、復た糧を以て之れを迎へざる也。杜佑の通典注には、舟・車・人力の運送を三載と云へるなり。案ずるに、役は人力也、糧は兵食也。人力を用ふること二度に及ぶときは、國中大につかれて人民必ず離散すべし。ゆゑに再びせざる也。糧は始中終の三度也、始と、なかごろと、をさまりと、三度おくるは常法也。速なるがゆゑに、或は一度或は二度にて三度までに及ばずと見る可き也。いづれも速にして久しからざるの意也。

○孫子国字解:『善く兵を用る者は、役再たび籍せず、糧三たび載せず、用を國に取糧に敵に因る、故軍食足ぬ可也。』
 善用兵者とは、軍を上手にするものと云ことなり。但し孫子が意は、上の段を承て、よく軍の害ある處をつくして知たる人を指して、善用兵者と云たることなり。何ほど軍の勝利を得る處をよく知り、合戦を上手にしても、軍の害を知らぬ人は、必不覺をとり、滅亡を招くゆへ、孫子が心には、軍をよくするとは云はぬなり。役不再籍とは、役とは民を役にあてて軍中へ召連れ、軍兵として使ふことなり。古は兵農いまだ分れずして、農民を以て軍兵とせしなり。日本にても古はかくの如し。故に當代武家の官職を役と云は、もと民兵より起りし詞なり。籍とは伍籍のことなり。伍は五人組にて、備立の本は、五人を一組とするより組はじむるなり。籍は着到の帳に付けて、軍兵の列に入るることなり。再籍すると云は、最初いくさを起して打出る時、民をゑらびて伍籍にしるし、他國に赴けども、軍利あらずして多くうたれ、或は年を經る戦ひなれば、去年ゑらびし軍兵は、かはりて故郷に歸るゆへ、再び別人を着到に付けて本國より軍兵を呼よするを、再籍すると云なり。役不再籍と云時は、速かに戦て勝利を得、長陣をせず、又打死もなければ、最初召連れたる軍兵のままにて、再軍兵を調らむことなきを云なり。一説に籍の字をかるとよむ。民を役にあてて軍兵となすにも、年番ありて勤ることなり。當年の戦に、當年の年番のもの打たるれば、兵卒不足なるによりて、來年の年番のものをくりこして召よするは、借る意なるゆへ、借ると云と見たる説もあり。是にても通ずれども、少しまはり遠き説なり。糧不三載とは、糧は兵粮なり。載するとは車に載すると云ことにて、兵粮をはこむことなり。三たびのせずと云は、出陣の時に、國境まで兵粮を車に載せはこびて送り、歸陣の時、又國境まで兵粮をのせ運びて迎るばかりにて、兵粮をはこぶこと都合兩度なり。敵地へ兵粮をはこび送ることなきゆへ、三たび載せずと云なり。是又速に戦て、長陣をせざる利を云なり。通典の注には、舟と車と人夫と三段に送るを、三たび載すると云と云へり。海川をば舟にて送り、平地をば車にて送り、險阻ば人夫にて送るなれば、平地、險山、海川と三重につぎて、兵粮を送るは、真になんぎなることなれば、是を戒めて、糧不三載とも云べけれども、三つを重ねたりとも、近くて速かならば、苦しかるまじきことなり。海ばかり、或は山ばかり、或は平地ばかりにても、遠境へ粮を送らば、其費甚しかるべければ、誤れる説なるべし。取用於國とは、用は器用とてうつはものなり。總じて兵具そのほか入用の道具を云べし。國とは本國なり。本陣の時兵具其他の諸道具をば、本國より持行べしと云ことなり。因糧於敵とは、兵粮をば敵國にて取て使ふと云ことなり。因とは新しく支度せず、もとよりある物を直に取て使ふことなり。敵國に於て敵の朝夕を養ふとて、積置たる兵糧を奪取て、味方の用に立よと云ことなり。故軍食可足也とは、よく軍をする大将は、かくの如くするゆへ、兵糧を本國より運ばずして、軍中の食物不足なくあるべしと云ことなり。畢竟長陣をして、敵國へ本國より糧を運ぶは、人民の大ゐなる疲れとなることをつよく云べき為に、かく云たるなり。取用於國と云句も、下の因糧於敵と云句を云ん為に、本國より持行ずして叶はぬ物を云たるなり。太刀、刀鎗、弓矢などは、人々の得道具、長短大小の寸法、それぞれの手に合たる程あり。其外の攻具等も、兼て出陣の砌(みぎ)り、廟算の上にて、此度は如何様の働をすべきかと、方略をきはめて打出ることなれば、持出ずして叶はぬなり。其外入らで叶はぬ物を持ゆかず、事に臨て手をつくは、思慮の淺きが致す處なれば、取用於國とは云たるなり。されども、竹木は何くにもあるものを、陣具を持行べきに非ず。敵地に川あらんに、それを渡んとて舟を陸地を持行べきに非ず。又兵具のるいも、損失多時は、敵の兵具を奪取て時の用をたすも、戦場の通法なり。況や此篇の末にも、敵の車を奪取て用ることを云たれば、強ちに本國の器用ならでは用ざれと云ことには非ず。唯兵糧を本國よりはこぶこと、費多きことを云ん為に、云たる句なりと輕く見るべきことなり。古來多く此句に泥みて、様々の説あり。國と云は敵國なりと云説あり。是處々の文例に違ひ、そのうへ下の句には敵と云ひ、此句には國と云、間もなき内にかやうに詞をかへて、紛らはしく書くべき様なければ、誤りの説なり。又器用損したらば、本國より取りよせて用ゆべし。兵糧は敵國にあるを用べしと云説あれども、是又泥みたる説なり。敵の兵具は、決定して味方の用にたたぬと云道理なければ、必本國より取よすべき様なし。又器用は輕く兵糧は重きゆへ、器用をば本國より持行と云説あれども、雲梯[うん‐てい【雲梯】城攻めに用いた長いはしご。くものかけはし。]望樓[ぼう‐ろう【望楼】バウ‥遠くを見るための高い建物。ものみやぐら。]のるい、輕きものにはなけれども、持行ずして叶はぬなり。唯器用のるいは、尤損失はあるべけれども、兵糧の如くそのまま食ひへらすものにてなければ、本國より持行て用をたさるるものなり。兵糧は長陣をするほど夥しく入るものにて、跡よりはなくなるものなれば、敵の糧を奪て食するを以て第一の計とする意にて、取用於國の一句は、けりやうに云たると心得べし。それゆへに下の句に、故軍食可足也とて、食物のことばかり云て、器用のことをば云はぬなり。されども因糧と云こと大切のことなり。敵も用心をするものなれば、敵の兵糧も輒[すなわち。そのたびごとに。]くとらるべきに非ず。又古より士卒の亂妨をするとて、郷村へうちちり、營陣を空くして敵に襲はれ、不覺を取たるためし少きに非ず。故に孫子上に善用兵者と云たり。軍の上手にあらざれば、糧に因ることも又なり難きことと知べし。

○孫子評註:『善く兵を用ふる者は、役再び籍せず(二度の徴兵はしないの意。籍は人民を軍籍に入れて出陣させること。)、糧三たび載せず(出陣の時に、国境まで兵糧を車に載せて運び、凱旋の時、又国境まで兵糧を載せて運び、兵糧を運ぶこと合せて二度だけで、戦争中の兵糧は敵地で取り、敵地へ兵糧を運び送ることのないことをいう。すみやかに戦って長期にわたる戦争をしないことの利点をいったもの。)。』
 一擧すれば(一たび戦争をすれば、)則ち勝つ。兵、再籍を待たざるなり。出づれば則ち之れ(糧)を載せ、歸れば則ちこれを迓(むか)ふ、是(か)くの如くにして便(すなわ)ち了す。糧、三載を待たざるなり。此の篇の數字(再とか三とかの数字。)は皆用ひ得て汎(汎然、すなわち漠然の意。)ならず。

○曹公:籍とは猶賦するがごときなり。言うこころは初め民を賦して便ち勝を取り、復た国に帰りて兵を発せざるなり、と。始めに糧を載せ、後に遂に食を敵に因る。兵を還して國に入り、復た糧を以て之を迎えざるなり。

○杜佑:籍とは猶賦するがごときなり。言うこころは初め民を賦して便ち勝を取り、復た国に帰りて兵を発せざるなり、と。始めに糧を載せ、後に遂に食を敵に因る。還りて方(まさ)に国に入り、釁(きん)[①すきま。われめ。不和。②きず。欠点。昔、中国で、祭器や武器が完成した時、鋳物のすきまにいけにえの血を塗りこめて魂を入れる儀式をいう。]に因りて動く。兼て人力を惜しみ、舟車の運び 三に於いて至らざるなり。

○李筌:籍とは書なり。再び籍すると書かざるは、人勞し怨を生ずるを恐れるなり。秦 關中の卒を發するは、是れを以て陳呉の難有るなり。軍出でるは遠近を度し之れを饋り軍人糧を載せ之れを迎う。之れを三載と謂う。境を越えれば則ち穀 敵に於いて館[形声。「食」+音符「官」(=公務員が集まって仕事をする家)。多くの人が食事をする建物の意。][敵地で食糧を調達して賄う、の意。]。三載無しの義なり。

○杜牧:敵攻むる可くに審らかなれば、我れ戦う可くに審らかなり。然る後に兵起きれば、便ち能く敵に勝ちて還る。鄭司農周體の註に曰く、役とは兵役を發するを謂い、籍は乃ち伍籍なり。參 伍を為す比(ころおい)、内政に因りて軍令に寄り、伍籍を以て軍を發し役を起すなり。

○陳皡:籍とは借なり。再び民を借りて役をせざるなり。糧とは往けば則ち載するなり。歸らば則ち之れを迎える。是れ三載せざるなり。兵困らざるか、國竭きざるか、速やかにして利するを言うなり。

○梅堯臣:陳皡の註に同じ。

○王晳:曹公の註に同じ。

○張預:役とは兵を興し衆を動かし之れ役するを謂う。故に師卦の註に曰く、任とは大役にして重し。功無ければ則ち凶なり。籍とは兵を調い之れ符籍するを謂う。故に漢の制に尺籍伍符有り。言うこころは一擧がれば則ち勝つ。兵役は國に再籍する可からざるなり。糧 始めて出づれば則ち之れを載す。境を越えれば則ち之れを掠(かす)[他人の物をうばい取る。かすめとる。]む。國に歸らば則ち之れを迓(むか)える。是れ三載せざるなり。此の言うこころは兵久しくして暴(さら)す可からざるとなり。


意訳
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○金谷孫子:戦争の上手な人は、[国民]の兵役は二度とくりかえしては徴発せず、食糧は三度と[国からは]運ばず、

○浅野孫子:巧みに軍を運用する者は、国内の民衆に二度も軍役を課したりせず、食糧を三度も前線へ補給したりはしない。

○町田孫子:戦争に巧みな人は、兵役を二度とかさねて課することはなく、食糧も三度とはかさねて補給することはない。

○天野孫子:戦争を巧みに行なう者は、二度も動員して民を兵役につかせることをしないし、また食糧を三度も輸送することをせず、

○フランシス・ワン孫子:戦争の機微をよく知る者は、一回兵を徴集すれば充分であり、補給品・食糧の調達も、出征の際と帰還に際してと、一度ずつすれば足りるのである。

○大橋孫子:善く兵を用いる者は、国民を二度と兵役につかせない(召集しない)し、糧秣を三度も戦地に追送するようなことはしない。

○武岡孫子:名将は国民を二度まで兵役につかせず、食糧を三度も国から運ぶようなことはしない。

○著者不明孫子:戦争の上手なやりかたは、兵役は徴集を二度繰り返して行うことなく、軍糧は一度積み出したあと何度も運ぶことはしない。

○学習研究社孫子:軍隊を動かすことに巧みな者は、徴兵は二回することなく、食糧調達を三回することはない。

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